582.
どこから来た者か、またどこへ逝ったか、それをあなたは知らない。
両辺も見えないその人のために、あなたは無意味に嘆く。
数字はスッタニパータの偈の通し番号
智慧のある人は、死をこのように見るのです。
この死にゆく人がどこから生まれてきたのか我々は知らない。死んでどこへ行ってしまったのかも知らない。我々にはどちらも知る由もない。だったら、なぜその死を悲しむのでしょうか、と。
自分のいるところへ突然生まれてきた。どこから来たか本人も知らない。それからそのまま死んで出ていってしまうのです。いったい、どこへ行ったのかもわからない。だから、その人に対してなぜそれほど悩むのか、ということなのです。
自分の息子がどんな国から、どんな世界から生まれ変わってきたかと知っている人がいるでしょうか?誰もわかりません。どんな人でも、いったいどこからこの世に生まれてきたのかわからない。本人も知らないし、まわりの誰も知らない。だから、まあ、ただのお客さんみたいなものなのです。お客さんとも言えない。勝手に現れてきて、断りなく出ていくのです。しかし、それが人間の命なのです。
どこからか生まれてきて、どこかへと死んでゆく。それに嘆き悲しむとは、どういうことか、ということなのです。
スマナサーラ長老 施本
『箭経ー親しい人を亡くしたときにー』
p.26
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